マウスとラットの表現型比較 – 筋疾患 –

筋疾患の分野では、同じ遺伝子をノックアウトしてもマウスとラットで異なる表現型が現れる例がいくつか報告されています。以下に代表的な例を挙げます。


1. ジストロフィン(Dmd)ノックアウト

  • マウス(mdxマウス):ジストロフィン遺伝子を欠損したmdxマウスは、軽度の筋ジストロフィー様症状を示しますが、寿命はほぼ正常で、筋再生能力が高いため重篤な症状は現れにくいです。
  • ラット(Dmd^mdxラット):同様にジストロフィン遺伝子を欠損したDmd^mdxラットは、ヒトのデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に近い重度の筋病変を示し、心筋や横隔膜を含む全身の筋肉に進行性の線維化と炎症が観察され、10~14か月で早期死亡することが報告されています。 (PLOS One)

2. ミオスタチン(Mstn)ノックアウト

  • マウス:ミオスタチン遺伝子を欠損したマウスは、筋肉量の増加と筋線維の肥大を示しますが、筋力の増加は限定的です。
  • ラット:同様にミオスタチン遺伝子を欠損したラットでは、体重、体周囲、および筋肉量の有意な増加が観察されましたが、握力には有意な変化が見られませんでした。 (BBRC)

3. Sidt2ノックアウト

  • マウス:Sidt2遺伝子を骨格筋特異的にノックアウトしたマウスでは、筋ジストロフィー様の表現型が観察され、筋肉の変性や再生異常が報告されています。 (Metabolism)
  • ラット:Sidt2ノックアウトラットに関する詳細な報告は現在のところ見当たりません。

これらの例から、同じ遺伝子のノックアウトであっても、マウスとラットで異なる表現型が現れることが明らかです。これは、種特異的な遺伝子発現制御、代償メカニズム、発生過程の違いなどが関与していると考えられます。

筋疾患の研究において、これらの種差を理解することは、より正確な疾患モデルの選択や治療法の開発において重要です。特に、Dmd^mdxラットモデルは、ヒトDMDの病態をより忠実に再現するため、前臨床研究において有用なモデルとされています。(PLOSOne)

ラットを用いた研究 : 年別
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